所感No・006b
「破産と報徳思想」(後編・「債権者」側)
前ページは、主に「債務者」側の視点での記載でしたが、弁護士として、「債権者」側の代理人となる場合も、当然あります。
「販売先が倒産した、売掛金が入金しない、受取手形不渡りになった」といった内容での相談です(所感02「経営難の中小零細企業」参照
)。訴訟を起こすのは簡単で、当然勝訴しますが、相手が無一文では、まったく回収できません。事実上、弁護士に頼んだ時点で、ほとんど手遅れです。この点
を、前出の方に質問しましたら、ご返答のメールを頂きました。売掛金や約束手形で回収されている方には参考になると思いますので、同様にご許可頂き、該当
本文を、下記に転載します。
(題)「営業と与信の分離が貸倒を回避する」
取引先が民事再生を申請した。「15%を3年間で支払う、残りの85%は債権放棄しろ」と裁判所に言われた、などの相談が、よくこちらにもあります。「顧
問弁護士に相談しろ」としか言えません。ただ、弁護士に頼んだとしても回収は絶望的であると思います。これは、どうしようもありません。諦めるべきです。
普段から、貸倒を作らない、もし相手が倒産しても被害を最小限にする体制を構築しておく以外にありません。
いろいろな業種があります。各業種によってそれぞれの事情があり、決済条件が違います。
私の経験ですが、米国で、日本との合弁の法人の取締役、監査役をしていたことがあります。そのときに初めて、経理に関係しました。帰国して、いろいろな会
社の財務諸表を見ましたが、驚いたのは、売掛金(Account receivable)の異常な大きさでした。それに、受取手形残高の信じられない大き
さでした。そして、貸倒金額の異常な大きさでした。それも単一の取引先に対しての貸倒れが、途方もなく大きいのに気が付きました。米国でこのような経営を
していたら、責任者は刑事告訴の対象になるのではと思いました。
実は、連鎖倒産は日本のこの取引システムが原因です。何故、日本の企業の貸倒がこのように巨額となるのか、良く米国人に聞かれ、当時は説明に困りました。
ある製造業の会社で、製品を、地方の問屋さん経由で販売している会社がありました。業歴は80年を超えており、先代、先々代からの取引がある、地方の得意
先である問屋さんが多かったと記憶します。営業マンは所謂ルートセールスで、付き合いが長いので、担当の顧客である問屋さんが経営的に苦しいと解っていて
も、「この買い注文は遠慮したい」と相手に言えない事情がある事がわかりました。例え、支払い遅延があっても、追加注文を断れないのです。追加注文を断っ
た段階で、相手が怒ってしまい、商売が即時停止となる事もあります。
ある得意先との取引は、毎月200万円ほどで、それほど多額では無いのですが、決済条件は20日締め、翌月末の自振り手形で、約束手形の期日は120日で
した。この場合、相手が倒産すると、5ヶ月分の販売金額が回収不能となります。締め日の関係で、実際には6ヶ月分が引っ掛かります。と言うことは、1,
200万円の貸倒が発生することになります。
手形決済は関東大震災以来の悪習のようです。しかし、そうかと言っても、米国で、このような貸倒を作ってしまったら、背任で刑事訴追されると思います。
何故、日本で、このような事になるかと言うと、「営業」と「与信」が分離されていないからです。日本の場合、この営業と与信を、強行法規で強制的に分離し
ないと駄目ではないかと思います。一定以上の規模の企業は社内で営業と与信を、強制的に分離する。与信部門の担当者が、情実で一定の基準を超えて与信を承
認した場合は、背任で刑事告発する。基準内で与信を与えた場合でも、貸倒となった場合は、降格、解雇の対象とする、など厳格な適用が必要です。
中小零細企業では、先ず、営業が売買契約を締結します。この契約を、信用供与会社の審査が通ることを条件とする、いわゆる「停止条件付き契約」とすること
が必要です。この後、信用供与会社が買主の信用状況を審査して、売主から債権を買い取るかどうかを決める。
信用供与会社が、売り主から確実に条件どうり支払いが受けられると判断し、売り主に通知した場合にのみ、売買契約が成立する。これにより、売主は信用供与
会社から代金を即金で受取る。また、買主は、信用供与会社との契約に基づき代金を支払う。当然、信用供与会社の5%ほどの口銭は発生するが、売り主にとっ
て、代金が回収不能となる事を考えると安い物です。
それだけでなく、営業員は、売掛金回収の責任から完全に解放されるので、販売に集中できます。その実例は、現在のリースや信販を考えると、解ると思いま
す。これを、物品ではなく、売掛債権に強制的に拡大する考え方です。
こうでもしなければ、得意先の倒産だ、夜逃げだ、破産だ、民事再生だ、などで、連鎖倒産する危険性が異常に高い、現代日本の取引慣行は、どうにもならない
と思っています。
先に、破産、民事再生は徳を貰うことだと言いましたが、徳など他人に与えたら、自らが滅んでしまう、全く、余力などは無い企業が多いのが実情だと思いま
す。このような場合は、躊躇する事無く、自らが徳を受け取る方に回るべきです。夜逃げではなく、破産、民事再生を申し立てる事が社会に対する責任を果たす
ことになると、発想を転換すべきです。
二宮報徳会 石戸谷慎吉
−−以上です。「営業と与信の分離」は、「なるほど」と頷ける内容でした。このような、アメリカ式のシステム導入により、長きに渡る日本の商取引の弊害
が、軽減され、いわゆる「復興再建」がなる事を願いたいと思います。ともあれ我々も、「生活」や「経営」が苦しい時も、余裕ができて楽になった後も、二宮
尊徳の「報徳の精神・生活様式」を見習って、日々を送るべきであると感じ入った次第です。
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